エティエ・ディマ・ポールセン 来日記念インタビュー
2008年1月12日@ギャラリー・ストレンガー
インタビュアー:月刊美術 西村孝俊氏
- 西村氏:
- すばらしい作品ですね。 作品にはそれぞれ意味がありますか?
- ポールセン:
- どの作品も私にとっては、自分の持っているアイデアを形にするプロセスです。
- <"Esprit of Destiny"(2007)を指差しながら>この作品からお話しましょうか。 四角い形、静的で地にしっかりと足の着いたイメージの作品ですが、プレ・コロンビアン・アート(植 民地時代前のアフリカン・アート)からインスピレーションを得ています。四角形と幾何学模様ですね。
- ただ私はアフリカの要素だけではなく、様々な文化の様々なエッセンスを作品に織り込んでいます。(別の作品を指差し)こちらの作品の人物の着衣に描いた模様は、伝統的なアフリカの民族衣装からインスピレーションを得ました。しかし"Esprit of Destiny"の場合は、伝統的な民族衣装からだけではなく、現代のシステムであるGPS(global positioning system = 衛星利用測位システム、カーナビなどに利用されている)から取ったイメージも使用しているんです。
- このいろいろな色彩を使った正方形の部分に、GPSナビゲーションのイメージを使っていますね。この緑の部分が森、青い部分は水を表現しています。
- 西村氏:
- とするとこのヒビは道路でしょうか?
- ポールセン:
- はい。 このようなヒビは自然に入るんです。土の不思議ですね。
- 今回の個展が行われる麻布十番をGPSで調べました。この作品が旅をすることになるはずの場所です。だから作品名は"Esprit of destiny (宿命のエスプリ)"。
- 西村氏:
- (記号を指差しながら)これは・・・何かの文字でしょうか?
- ポールセン:
- これは実在の記号ではありません。日本についてわくわくしながらあれこれ想像しているうちにできた形です。なにかを見てコピーしたわけではなくて、日本へのあこがれが形になったというか・・・ 言ってみれば私の日本のイメージです。
- 西村氏:
- 作品の形などは植民地時代のアフリカン・アートから着想を得ていますか?
- ポールセン:
- 植民地時代前ですね。プレ・コロンビアンです。
- 西村氏:
- 製作したのはいつですか?
- ポールセン:
- 3ヶ月前です。
- 西村氏:
- この展覧会のために制作したものは何点ほどあるのですか?
- ポールセン:
- 22作品です。
- 西村氏:
- 展覧会の場所やスケジュールが決まってから制作を開始することが多いのですか?
- ポールセン:
- いいえ。特にそういうわけではなくて、1年中ずっと制作はしています。なにかのきっかけでどこかの場所やそこの歴史に興味を持つと、その土地へのあこがれの気持ちから制作を始める、ということを1年を通して行っています。展覧会前に手を加えることはありますが
- 私のテーマはクラッシクで・・・ ほとんどの作品、特にシンプルで細みな、非常にアフリカ的に見える初期の作品群は、民族衣装など伝統的なアフリカの要素を多分に含んでいます。
- 私は5歳までエチオピアで過ごし、14歳までタンザニアとケニアで暮らしました。でも、何でも覚えているわけでありません。たとえばこの作品の青い衣装ですが<"Nomado"(2007)>、このイメージは断片的な記憶として残っていました。
- 伝統的なスタイルや民族的要素を模倣したわけではなくて、私は自分の記憶の断片と、なつかしいアフリカへの思いで作品を制作しています。いわば私が翻訳しなおしたアフリカです。
- 西村氏:
- アフリカのアートや美というものが大きなインスピレーションの源になってるようですね。しかし今のお話を伺って、同時にその他の様々な文化、たとえば先ほどおっしゃっていたように今回の来日やGPSというモダンなシステムなども含めて様々な文化が、あなたをインスパイアしていることがわかりました。非常に興味深いです。
- ポールセン:
- 植民地時代以前のアフリカン・アートから着想を得ていますが、私はその時代に生きているわけではなく、現代を生きています。そこで、自分の生きている現代社会から、携帯電話やGPSなどの要素も作品に加えたりしています。
- 作品の中には、私にとって非常に日本的だと思えるものがあります。たとえばこの"Man from Japan" (2007)の目は、とても柔和なで静かな表情をしています。仏教美術と共通するものがありますね。静かな、内的な、瞑想にあるような目をしています。人の表情には非常に興味を持っています。
- さまざまな文化的要素を作品に取り入れるという意味では、私はミツバチですね! 花から花へ飛び回っていろいろな花のエッセンスを集めて、そうして蜂蜜を作っているから。
- 西村氏:
- 常に人間がモチーフのようですが、そのほかのテーマで制作することはありますか?
- ポールセン:
- どんな作品を制作しても、たとえ目や手足のない作品であっても、私は常に人間をテーマにしています。
- 作品とコミュニケーションしているときは、いつも体よりも顔に多くの時間を割きます。<ダンサー三部作*を指差して>この3体の作品のうち、1体だけは顔の表情を消してみました。表情はないですし、顔の表面もフラットです。それでも、体より顔と向き合っている時間のほうがずっと長かったです。
- 作品の顔と向き合っていると、とても集中できます。無の境地、とでも言うのでしょうか。集中して作品を制作しているとき、ありのままの、本当の自分自身に向き合うことができるような気がします。
- もしかすると、日本のみなさんはこの精神状態を瞑想と理解されるかもしれませんね。私の場合は自分の文化や生活の中には瞑想というものは存在しないので、制作活動を通した無の状態という言い方が正しいような気がします
- 西村氏:
- では少し具体的なことをお聞きします。軸は金属ですか?
- ポールセン:
- 中心の軸は鉄で、鉄網、そのうえに粘度です。まずは焼く前に乾燥させます。これらのヒビはこのとき自然に入ります。それから色をつけて窯に入れ、1000度で焼きます。そしてその後おがくずの中に入れます
- 西村氏:
- おがくず?
- ポールセン:
- そう、おがくず。日本の楽焼のテクニックです。白い作品をおがくずに入れて燻すと、還元されて(酸化の反対)黒い色が出ます。
- 西村氏:
- ご自分の窯をお持ちですか?
- ポールセン:
- ガス窯を持っています。120センチくらいの高さで、円錐のような形をしています。窯より大きい作品を焼くときは、台車に作品を乗せて、ゆっくり少しずつ動かしながら焼いていくんです。デリケートな作業とはいえないですね〜。
- 西村氏:
- セラミックは学校で学んだのですか?
- ポールセン:
- 独学です。セラミックの作家とともに制作し、その人物から学びました。
- 西村氏:
- 影響を受けた作家はいますか?
- ポールセン:
- 最初に惹かれた彫刻家はジャコメッティです。
- 西村氏:
- 最後の質問ですが、見る人に特に伝えたいことなどはありますか?
- ポールセン:
- 彼、<とGPSで東京の地図を使用した"Esprit of Destiny"を指差して>東京のGPSイメージを焼き込んだこの作品、私はとても好きです。というのは、この作品は私の来日記念でもあるからです。デンマークに住む私にとって、日本は遠い国です。でも、楽焼の達人たちは日本人でしたし、日本に対して親しみを感じてきました。日本を訪れて個展を開催することができてとてもうれしいです。
*ダンサー三部作 − "Blue Dancer"(2007)、"Turquoise Dancer"(2007)、"Dancer in Pink"(2007)